【高畑勲】桃太郎論「日本人の心性」【講演メモ】

(2015年1月15日、1月18日、2月10日のツイート)
イベント、子供の本について・・「感じる、気付く、そして未来を考える」 - Another World 物語の幻影の世界へ

「日本人の心性」の、ある側面について (高畑勲)
『熱風』2015年2月号 特別収録

※2015年1月15日千駄ヶ谷・津田ホールで行われた講演の準備原稿

 昨年秋、岡山で育った私のところに、ある新聞社の岡山支局から、『かぐや姫の物語』で、観客に「竹取物語」になかった視点を与えたあなたに、「桃太郎と岡山イメージ」の陳腐さを打破すべく、これまでにない新たな視座を提供してほしい、という要請がありました。岡山駅の駅前広場には、あの有名な陣羽織・鉢巻の出で立ちで、遠くを見晴るかしている桃太郎の銅像が立っています。でも、私は桃から生まれるところ以外、桃太郎のお話が嫌いなので、お断りするしかなかったのですが、あらためて「桃太郎」について考える機会を得ることになりました。そうこうしているうちに、偶然というものはあるもので、昨年暮れの朝日新聞の夕刊コラム、“終わりと始まり”で、池澤夏樹さんの「桃太郎と教科書 知的な反抗精神養って」(2014・12・2)という文章に出会いました。

桃太郎と教科書 知的な反抗精神養って 池澤夏樹 (PDF)

 私は池澤夏樹さんのコラムにほとんど全面的に賛成です。ただ、いくつかの点では賛成できません。そして日本の進路が大きく転換するかもしれない今だからこそ、それについてここでみなさんと一緒に考えたいのです。

 まず、私も池澤さん同様、「桃太郎」というお話になじんでいていいお話だと思っている子どもたちに「唖然としてほしい」のですが、池澤さんが「ぼくの桃太郎論を読んだ生徒が反発してくれればくれるだけ、ぼくは嬉しい。」というのには賛成しかねるのです。一種の反語かもしれませんが、それでもむしろ、一旦「唖然」とし、反撥した生徒が、池澤さんが言っていることが本当かどうかを、あらためてじっくりと自分で考えるようになってほしいと思います。

 それからもう一点、池澤さんが「日本人の心性」としたことを、〈間違いだった。悲しいことながら、本当は「人間の心性は」と書くべきであった。〉と反省されたことにも賛成できかねます。むろん「日本人の心性」には他にもあげるべきものがあるでしょうし、また、たしかに世界でさまざまな侵略がやまない以上、「人間の心性」とされることそれ自体はそれで正しいでしょうが、この際は、そのように一般化すべきではないと思います。

 なぜなら、「桃太郎」は攻めてきたり人さらいや略奪にきたりする連中を土地の人が撃退する話ではなく、日本一の幟をかかげ、陣羽織に鉢巻という軍装をして、懲らしめに鬼ヶ島に赴くわけです。このような昔話は世界的に見ても、おそらく稀有なものではないでしょうか。しかも、日本でも「桃太郎」以外にはそんな民話・昔話はなく、伝説として『大江山の酒呑童子』の話があるだけです。どうやら桃太郎は普通の民話に出てくる庶民ではなく、酒呑童子をやっつける源頼光たちと同じ武士らしいことが分かります。船の調達だって大変でしょう。なのに、そういう特殊な「桃太郎」が、今なお日本を代表する昔話・民話になっていることは、まことに「唖然」とすべきことだと私は思います。日本に独特なことであり、現に、江戸時代以来、北海道経営や開発にあたり、アイヌ民族への侵略・略奪行為が激しかった以上、それを「日本人の心性」と言ったとしても、残念ながら少しもおかしいことではない、池澤さんが反省する必要はない、と私は思います。

 よく、「桃太郎」は日本の軍国主義侵略のプロパガンダとして使われた不幸な歴史があった、などと言われますが、そしてたしかに、多くの文筆家が「桃太郎」を引き合いに出して、暴支膺懲、すなわち暴虐なシナを懲らしめよとか、鬼畜米英を屠ろうなどと語り、海軍省の肝いりで格好いい『桃太郎の海鷲』(1943)『桃太郎 海の神兵』(1945)が制作されたように、それはそのとおり「不幸」だったのですが、元々「桃太郎」は、もう明治初年からきわめて侵略的な物語だったことを忘れるわけにはいきません。使われ方で「不幸」が生じたというより、これはこの物語の本質の問題ではないか

(高畑勲の「桃太郎」論(準備原稿)から要点を部分的に引用)



桃太郎 芥川龍之介 - 青空文庫

【高畑勲講演メモ】

『熱風』掲載の原稿では
五味太郎さんの『だれでも知っているあの有名な ももたろう』という
「解毒剤」としての絵本を紹介したいのですが、時間がありません」とあるが、
実際の講演では話の勢いに乗って絵本の朗読を始め、
かいつまんで内容の紹介をする。

『熱風』掲載の原稿には
「昔の国民学校教科書にもすてきな文章がいくつもあって、
今でも暗誦しているものもあるのです」とあるだけで具体的に言及されていないが、
『山の上』『汽車』のふたつの唱歌を講演では例に挙げる。

高畑勲の講演終了後はQ&Aの代わりに、
絵本作家いわさきちひろの長男である松本猛を相手役にして対談。
日本には反対意見を闘わせる風土がない。
戦後民主主義第一期生(高畑勲)からみて、進歩がない。
議論の仕方を学んでいないんじゃないか。
教育が問題だけれど、現場の先生は忙しすぎて、どうしようもない。

「ちひろさんは「桃太郎」を題材に絵本をお描きになりましたか」 (高畑勲)
「いやしていません」(松本猛)

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