【『やぶにらみの暴君』】『王と鳥』回顧録【日本劇場公開から60年】

(2015年1月26日、1月29日のツイート)

映画「王と鳥」公式サイト限定予告編

 スタジオジブリ洋画アニメーション提供作品としてフランス長編アニメーションの金字塔であるポール・グリモー監督の『王と鳥』が2006年7月29日に日本で劇場初公開されました。それに先駆けて、2006年6月30日東京日仏学院で『王と鳥』先行上映会が開催、それにも参加したのですが、公式サイトの予告編を何度も観ながらも待ちきれずに、さらに先駆けて既に発売されていた(デジタルリマスター前の)IVC版『王と鳥』DVDを購入して、イベント前に観てしまいました。

 東京日仏学院の『王と鳥』先行上映会では、高畑勲の初監督作「ホルスの大冒険」そしてポール・グリモーの短編映画の上映、高畑勲のトークショーもあって(当初はポール・グリモー研究家のフランス人との対談予定だったが、大塚康生との対談に変更)、会場では高畑勲監修のギャラリー展示も開催、グリモー夫人(美しい人だと思ったのを覚えています)や息子のアンリさんもいらっしゃったりと、豪華なものでした。上映会参加者には特典として、本場フランスで1991年に開催されたグリモー展のカタログなどを頂きました。文章はフランス語なので読めませんでしたが(笑)。


『やぶにらみの暴君』英語吹き替え版
(『王と鳥』改作前、作者未完成バージョン)

 英語吹き替え版は、高畑勲の徹底的な分析研究本『漫画映画の志 『やぶにらみの暴君』と『王と鳥』』によれば、王の肖像画を宮廷画家が描く一連のシーンがまるごとカットされていますし、吹き込んだ役者の格が違うと高畑勲が言う、(『王と鳥』のキャストとは異なる)オリジナルのフランス語によるキャラクターたちの声を聴くことはできません。『やぶにらみの暴君』がどのようなものであったかを窺い知る貴重な資料ではありますが、高畑勲と宮崎駿が多大な影響を受けた映画そのものではないことは強調しておきたいです。

 前述の理由と合わせて、『やぶにらみの暴君』英語吹き替え版の劣悪な画質では、きれいになった画質の『王と鳥』と、どちらが良いかという単純な比較の判断はできないと思うのです。カットされたジョセフ・コスマの楽曲が惜しいと思う一方で、『王と鳥』で強烈な印象を刷り込まれたヴォイチェフ・キラールの音楽抜きの作品も考えられません。そもそも『やぶにらみの暴君』は制作途中で予算が尽き、プロデューサーのアンドレ・サリュがグリモーとプレヴェールの意向を無視して、無理やり完成させた作品です。不幸な結末に至らずに、グリモーとプレヴェールそして当時の主要なアニメーターたちの意志が貫徹された『やぶにらみの暴君』を私は夢想します。


渡辺邦男『やぶにらみの暴君』(1955)

 漫画版『やぶにらみの暴君』です。小鳥が4羽とも茶色などの違いもありますが、映画のコミカライズとして、再現度が高いと思われます。冒頭と名場面(見開き)は美麗なフルカラー。宮崎駿は『やぶにらみの暴君』を、映画より先に、この漫画で読んでいたそうです。もちろん絶版になっており、本家本元の映画が現在封印状態にあることを思うと、手塚治虫の幻の漫画『バンビ』のように復刊される可能性はほぼなく、絶望的といえます。東京上野の国際子ども図書館で閲覧できるので、機会があれば一読あれ。


東京日仏学院先行上映会トークショー終了後に開催された高畑勲サイン会。
ジャック・プレヴェールの詩集(高畑勲訳)を購入。

 『王と鳥 エディシオン・コレクトール』には、スタンダード版DVD最近発売された廉価なブルーレイにも収録されていない、フランスのポール・グリモー回顧展を高畑勲が観に行く(2006年3月)「ポール・グリモー展と高畑勲 in France」と東京日仏学院先行上映会イベントの記録「高畑勲とポール・グリモー展 in Tokyo」という2つの映像特典が収録されています。この2つの映像特典には、テロップで紹介されない若い男が高畑勲の近くにたびたび映っています。このときはまだ『王と鳥』宣伝プロデューサーという立場でしたが、のちに『かぐや姫の物語』のプロデューサーを務めることになる西村義明がその人です。

 個人的な話になりますが、西村義明Pの姿を実際に何度か見かけたことがあります。本名陽子さんがゲストの歌手でいらしたジブリ美術館で開催された『イバラード「星をかった日」スペシャルコンサート』に、高畑勲監督が聴きに来ていましたが、彼も高畑勲と一緒にいました。2009年9月のことですから、『かぐや姫の物語』の準備室がスタジオジブリに開設される丁度前あたりです。「西村義明」の顔と名前が全面に出てきたのは、2012年12月東宝の「かぐや姫の物語」「風立ちぬ」 スタジオジブリ新作発表会見で、ジブリ美術館のコンサートのときには、「畑事務所所属のお付きの人なのかな?」ぐらいにしか思っていませんでしたけどね(笑)。

 元ジブリの演出家・宮地昌幸の監督作の公開記念イベント(2012年11月3日)にジブリの米林宏昌が登壇したトークイベントのレポートを以前書きましたが実は余談がありまして、イベント終了後出待ちをしていたら、米林監督と一緒に出てきた人がいたのですが、私の記憶違いでなければこの人も西村Pでした。『思い出のマーニー』のプロデューサーも兼任していると知るまでは、「『かぐや姫の物語』制作のために高畑勲から四六時中離れずにいるのだからあの場にいるわけない!」とずっと思っていました。


『灰色の女』から『カリオストロの城』まで 宮崎駿が解き明かす「幽霊塔へようこそ展」
岩波書店『幽霊塔』【江戸川乱歩/宮崎駿 カラー口絵(全16頁)】未収録パネル)

 「城のかたちとか表面的なところでは半分パクリみたいなところがある」と高畑勲も言う、『やぶにらみの暴君』の『ルパン三世 カリオストロの城』への影響ですが、その前の『未来少年コナン』について指摘する人もいますし、ビジュアル面では一見わかりづらい『天空の城ラピュタ』も非常にその影響が色濃いように感じます。世界そのものの存在感を出すための方法論を『やぶにらみの暴君』から学んだと宮崎駿自身も語っていますが、それとは関係ないキャラクター性と役割(設定は色々入り組んでいますが)について、「ラピュタ」は『王と鳥』のリメイクまたは続編のような印象を受けます。『ラピュタ王とドーラ』と改題するとわかりやすいかもしれません。見比べてみると面白いですよ。

 『王と鳥』ラストシーンで罠にかかった小鳥を助けたロボットがそのあと小鳥が入っていた檻を叩き潰すのですが、最初観たとき、小鳥もろとも叩き潰していないか心配してドギマギしました。小鳥が逃げおおせたという描写がないため、何度も同じ罠にかかる愚かな小鳥を断罪しているのかとも思いましたが、高畑勲の研究本に収録されていたグリモーによるラストシーン絵コンテを読むと、そのような意図はないようなので安心しました。

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『やぶにらみの暴君』『王と鳥』データ集
(高畑勲『漫画映画の志 『やぶにらみの暴君』と『王と鳥』』による)

『やぶにらみの暴君』
劇場公開:1953年(フランス)、1955年(日本)
制作期間:5年(グリモー&プレヴェール追放後2年)
制作費:5億フラン
作画枚数:40万枚

『王と鳥』
劇場公開:1980年(フランス)、2006年(日本)
制作期間:2年
『やぶにらみの暴君』から20分カット。
『王と鳥』全体の半分のシーンは作り直し。

【「やぶにらみ」にない新作シーン】
冒頭の射撃訓練の場面。各階紹介つきエレベーター上昇場面と大犀の時計。いらいらと吉報を待つ王を提灯胴の小道化師がなぐさめる踊りの場面。ロボットの胴が開いて結婚行進曲が演奏される場面。結婚式の準備場面。エピローグの小鳥救出と罠叩き潰し。

【大幅な追加・変更シーン】
鳥によるプロローグ。鳥の子守唄が夜の王宮に流れる場面。夜の秘密室内とそこから恋する二人が逃亡する場面。ロボットの出動場面。王のたいやき製造大工場の場面。猛獣がポルカを踊る場面。結婚式の場面。ロボットによる王国の破壊場面。

『やぶにらみの暴君』のテクニカラー3色ネガフィルムは、シネマテーク・フランセーズに保存。『王と鳥』フランス公開時のポール・グリモーの発言を根拠にすれば、『やぶにらみの暴君』の封印が解かれるのは2030年?
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『わたしたちがグリモーから受けた最も大きな影響は、彼と類似した側面を発揮できるかとか、詩的なものがつくれるかとかではなく、ひと言でいえば、人物や空間に存在感を与え、「子どもだまし」ではない内面性と社会性のある作品をつくろう、ということに尽きると思います』(高畑勲『漫画映画の志 『やぶにらみの暴君』と『王と鳥』』

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